要塞の中からかれら


要塞の中からかれら
「冷たい鶏肉ならありますが」ダーニクは気づかうように申し出ると、こんがり狐色に焼けた鶏の脚をかれにさし出した。
「どこでこんなものを見つけた」ローダーは肉をもぎとるように奪いながら叫んだ。
「タール人が持ってきたのです」ダーニクが答えた。
「タール人ですって」セ?ネドラは驚きの声をもらした。「何でタール人がここにいるの?」
「降伏したのです」ダーニクは答えた。「この一週間ばかりで、すべての村落の人々がここへ来ました。かれらは要塞まで歩いてくると溝の前に座りこんで、捕らえられるのを待っていたのです。タール人はじつに辛抱強く待ちました。まる一日かそれ以上、を捕らえる者たちが出てこないこともあったのですが、いっこうに平気なようすでした」
「なぜ捕まりにきたのかしら」セ?ネドラがたずねた。
「ここにはグロリムたちがいないからです」ダーニクが説明した。「トラクの祭壇もなければ、いけにえを捧げるための刀剣もありません。タール人はそのようなものから逃げられるのなら、捕虜としての不自由さも耐え忍ぼうと考えたようです。わたしたちはかれらを集め、要塞の中で働かせています。きちんとした監督さえしてやれば、じつに勤勉に働く者たちです」
「だがそんなに信用して大丈夫なのか」ローダーは口いっぱいに鶏をほおばりながらたずねた。
「スパイがまじっているかもしれんぞ」
 ダーニクはうなずいた。「わかっています。しかしそのようなスパイはみなグロリムです。タール人にはスパイとしての資質がないので、グロリムは自分たちでやらねばならないのですよ」
 ローダー王は思わず鶏の肉をのみこんだ。「グロリムのスパイを要塞の中に入れたというのか」


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