確かめることを許してくださったわ」ポレドラはきびしい目つきでベルガラスを見た。「あなたとは話しあうことが山のようにあるわよ、おいぼれ狼」
ベルガラスはたじろいだ。
「その重大な務めについて、われわれに教えてくださることはないんでしょうな?」サディが穏やかにたずねた。
「残念だけど」
「そうだろうと思ったんです」宦官はつぶやいた。
するとポレドラは金髪の若者に声をかけた。「エリオンド」
「ポレドラ」エリオンドは例によって、この事態の展開にちっともおどろいていないようだった。これまでにもエリオンドがまったくおどろいたことがないのに、ガリオンは気づいていた。
「最後に会ったときからずいぶん成長したわ」ポレドラが言った。
「そうでしょう」
「用意はできていて?」
その問いがガリオンの背筋を冷たくした。オルドリン王に素性を明かす前の晩に見た奇妙な夢を突然思いだしたのだ。
ドアに丁重なノックがあった。ダーニクがあけると、鎧を着た騎士が外に立っていた。「陛下のご命令により、港で船がみなさまがたをお待ちしていることをお伝えにまいりました、閣下」と、騎士は言った。
「わたしは閣下なんかじゃ――」ダーニクが言いかけた。
「ほっとけよ、ダーニク」シルクがそう言って、戸口の鎧姿の男に話しかけた。「騎士どの、陛下はどこにおられるのか? 陛下のたび重なるご好意にたいし、お礼を申し上げてから出発いたしたい」
「陛下はみなさまを港にて待っておられます、閣下。港でみなさまに別れをお告げになり、みなさまの行く手に横たわる偉大なる冒険に向けて、みなさまを見送られるおつもりでございましょう」
「では急ぐといたそう、騎士どの」シルクは約束した。「世界有数の君主のおひとりをいつまでもお待たせいたすのは、失礼のきわみ。貴殿は称賛に価する態度で与えられた仕事を果たされた、騎士どの。一同感謝いたす」
騎士は晴れやかにほほえみながら一礼すると、廊下へ出た。
「あんなしゃべりかたをどこでおぼえたの、ケルダー?」ヴェルヴェットがおどろいたようにたずねた。
「ああ、親愛なるレディ」シルクはばかばかしいほどおおげさに答えた。「見かけは平凡きわまりなくとも、その陰に詩人がひそんでいることをそなたは知らなかったのであろうか? えるのであれば、そなたの心を奪う比類なきすべての部分に品のない世辞をお送りいたそう」シルクはほのめかすようにヴェルヴェットの身体を上から下までながめまわした。
「ケルダー!」彼女は真っ赤になって叫んだ。
「なかなかおもしろいよ」シルクは古めかしい話しかたに触れてそう言った――すくなくともガリオンは、話しかたのことであってほしいと思った。「いったん〝いたす〟とか〝めさる〟とか〝であるゆえに〟とかの言いまわしが身につくと、ひびきといい韻律といい、悪くないよ、そうじゃないか?」
「わたしたちは知ったかぶりの連中に囲まれてますのよ、おかあさま」ポルガラがためいきをついた。
「ベルガラス」ダーニクが真剣に言った。「馬に乗っていってもあまり意味はなさそうですね。珊瑚礁にたどりついたら、岩場をよじのぼったり、波を乗り越えたりすることになるわけですから。馬は足手まといになるだけじゃないですか?」